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ヒゲを使った製品
クジラのヒゲってどんなヒゲ?
世界中の海には現在、10数種類のヒゲをもつクジラの仲間がいると言われています。ヒゲをもつクジラの上あご両側には数百枚のヒゲ板が生えていて、その色や形はクジラの種類によって様々。クジラのヒゲは生きている時は弾力があり、よくしなります。その主成分は、私たちのツメと同じ「ケラチン」と呼ばれるたんぱく質で、三角形の形と毛のような繊維質が特徴です。
様々なものに利用されていたヒゲ
蒸気で蒸したクジラのヒゲは柔らかくなり、型に圧力をかけることで様々な形に加工することができます。その独特の弾力や手あかで汚れにくいという機能性の高さとべっ甲にも似た気品を感じさせる美しさをあわせ持っていました。加工には高い技術を要しますが、現在も北海道、宮城県、大阪府、長崎県などでクジラヒゲ加工品の生産が行われています。しかし、加工にかける時間や労力がコストに合わないことや職人の高齢化、材料であるクジラヒゲの入手が困難などの問題によって、生産規模は縮小し、その技術は失われつつあります。
ペン立て
クジラヒゲを切ったり曲げたりしてものを磨き上げて、クジラの尾びれをかたちどっている。
かんざし
かんざし
ナガスクジラのヒゲ製
イワシクジラのヒゲ製
髪飾り。繊細な細工がされている。黄色や灰色がかった色はナガスクジラのヒゲ製、黒色はイワシクジラのヒゲ製。
ペーパーナイフ
クジラをかたどったペーパーナイフ。左側にクジラの頭部の細工が施されている。
茶たく
湯のみの下にしく受け皿。型をあてて裁断し、蒸気で蒸した上で圧力をかけたプレス機で圧着して整形している。
銘々皿
菓子などを取り分ける小皿。茶たく同様、型をあてて裁断し、熱と圧力を利用して整形したもの。
釣竿
先端のしなりが必要な部分にクジラのヒゲが使用されている。淡水魚を釣るためのものか。
耳かき
耳かき
柄 :ナガスクジラのヒゲ製
飾り:イワシクジラのヒゲ製
細く切ったクジラヒゲの先を耳かき状に削り、曲げている。頭についたクジラの手書きの表情がおもしろい。
まごの手
クジラヒゲを繊維に沿って切り、先に切れ込みをいれて曲げたもの。まごの手状に曲げる技術は非常に難しい。
靴べら
クジラヒゲの素材を活かした趣のある靴べら。適度なしなりがあるため折れにくく、足のなじみがよいと人気だった。
置物
船の帆やクジラ、イルカの体の部分にクジラヒゲが使われている。型抜きや曲線に曲げる技術がうまく使われている。
淡路木偶人形 頭 上田泰弘氏蔵
淡路木偶人形 頭 上田泰弘氏蔵
ナガスクジラのヒゲ製
淡路人形浄瑠璃の歴史は500年を誇り、太夫、三味線、人形遣いが三位一体となって義理と人情の物語を演じます。3人1組で操られる人形の頭には目や眉が動く、角が出るなど様々な仕掛けがなされ、ここにクジラヒゲが用いられます。厚さ1㎜前後に削り、幅1㎝ほどに切ったクジラヒゲを2枚重ねてバネにし、三味線に使う絹糸で目や眉などと繋ぎます。糸を引くと目や眉が連動して動くという仕組みです。動きの滑らかさからセミクジラのヒゲを使うのがよいとされていますが、近年入手が困難なことから他のクジラヒゲで代用されることもあります。この人形のバネは、ナガスクジラのヒゲでできています。
太夫…人物の喜怒哀楽や物語の情景を語る人
鵜飼の「ツモソ」
鵜を使って魚を獲る鵜飼において、鵜匠は一度に複数の鵜を操ります。「ツモソ」は鵜と鵜匠をつなぐ手縄を絡みにくくするために使われる30㎝ほどの細棒で、片側を鵜の首に巻かれた麻紐(首結)に、もう片側を麻製の細紐で手縄に結びつけて固定します。クジラヒゲの独特の弾力としなりが好まれ、かつて岐阜県の長良川でもセミクジラのヒゲで作られた「ツモソ」が使われていましたが、現在ではヒゲが高価で入手困難になったためプラスチック製に変わっています。この鵜に取り付けられている「ツモソ(矢印部)」はセミクジラのヒゲで作られたものです。
せせり
火縄に点火すると火炎が火道と呼ばれる小さい穴に吸い込まれ、銃身を通って中の火薬に点火します。火縄銃はその際に起こる爆発の勢いで発射する仕組みになっています。しかし、何回か発射を続けると細い火道(直径1~1.5㎜)は「すす」などで詰まって不発になってしまうため、「せせり」と呼ばれる細い棒状の道具で掃除をします。細い火道は奥の方で曲がっているので、曲がっているところにも入り込めるように適度な弾力をもつクジラヒゲが「せせり」の材料として用いられました。針金などのない戦国時代や江戸時代では柔軟性のあるクジラヒゲは大変重宝され、セミクジラやナガスクジラなどのクジラのヒゲが利用されたといわれています。
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歯を使った製品
クジラの歯ってどんな歯?
世界中の海には現在、70種類以上の歯をもつクジラの仲間がいると言われています。クジラの歯は食べるものの違いによって、その数や大きさが種類によって異なります。
様々な形の歯をもつ一般的な哺乳類とはちがって、クジラの歯は全て同じ形をしています。この歯をみると、クジラが食べ物をかみ砕いて食べるのではなく、丸のみにして食べる生き物であることが分かります。
様々なものに利用されていた歯
鯨歯工芸品の材料には一般に、歯をもつクジラの中で最大であるマッコウクジラの歯が使われます。歯の中心には、年齢や個体によって異なる大きさの穴があいているため、用途や作品の形状によって材料を見極めることが重要とされています。現在も宮城県、長崎県などで鯨歯工芸品の生産が行われていますが、材料である鯨歯の入手困難による材料費の高騰の影響から需要の低下を招いています。また、プラスチックなどの新しい素材の普及も重なって、鯨歯工芸品のたどる道は明るいものではなくなってきています。
鯨歯パイプ
鯨歯パイプ
マッコウクジラの歯からつくられたパイプ。
太地の捕鯨従事者の多くがこのパイプ自作し、使っていたとききます。
印材
印材
マッコウクジラの歯からつくられた印鑑の材料。
象牙のような美しい光沢と硬く耐久性に優れていることから、現在でも高級印材として取引されています。
スクリムショー
捕鯨船の船員たちが長い航海の間に、マッコウクジラの歯や動物の歯や骨などに彫刻を施したものをスクリムショーといいます。漁の合間に鯨とりたちは、洩っているナイフで思い思いの絵を刻み、その上に船の上でたいたクジラの油のすすをこすりこみ、丹念に布で磨きあげました。その多くは長い航海の帰りを待つ家族へのお土産としてつくられたといわれています。
花瓶
花瓶
巨大なマッコウクジラの歯を花瓶に仕立てた珍しい一品。
裏面に「昭和三十六年十一月 南氷洋で捕獲」と記載されています。
ペンギンの置物
ペンギンの置物
様々な大きさのマッコウクジラの歯を彫刻し、ペンギンを象った置物。
太地にはツルやペンギン、草花など多様なモチーフを象った置物が多く残っています。
龍の彫刻
龍の彫刻
マッコウクジラの歯に空を昇ろうとする龍の姿を施した彫刻。
硬い歯に細かい細工をするには、熟練した技術と経験が必要とされました。
ブローチ
ブローチ
マッコウクジラの歯を材料に、草花やクジラを象ったブローチ。
「すかし」のはいるデザインは、特に高い技術を必要とするといわれています。
鯨歯彫刻鯨六種額装
鯨歯彫刻鯨六種額装
マッコウクジラの歯を彫刻し、6種類のクジラを象ったもの。
細かい彫りを施されたクジラが並べた状態で額装されています。ハマノトシオ氏の作か。
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